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ナスカ展に行ってきた〜地上絵の謎に思いを馳せる


博物館の特別展は、最新研究成果発表の場でもある。2007年、人は地上絵の謎にどこまで迫ったのかと期待に胸はずませたが、残念ながら発見当初からこれといった進歩のない状態のままという印象を受けた。色鮮やかで動物や人を大胆に図案化した土器や織物の数々、金細工、ミイラや矯正・穿孔手術痕のある頭骨などの展示品は後のインカやシカンと一線を画す独特のナスカ文化を知らしめるに十分な数量で、そのルーツや生活・思想・宗教観など詳細な解説があり、ペルー周辺のインカ・シカン等の文明と地域・時代を比較した年表は分かりやすかったし、子供ミイラのDNA解析で当時の食生活にまで迫る最新の研究成果も興味深かった。ただ、儀式や祭礼のための道具ばかりで狩猟・農耕の道具や住居跡などの実生活にまつわる出土品がほとんどなかった(実際見つかっていないのかも)ためにナスカ人の「暮らし」がいまひとつ見えてこなかった。それと展示品の解説プレートには「複製」の文字は一切ないのがどうにも気にかかった(2000年〜1000年も前の遺物が驚くほど良好な保存状態であれだけ大量にあると本当に皆実物なのかと疑ってしまった)。また展示品には出土地域も書かれていなかったことから、ひょっとすると(あくまで勝手な推測だけど)これらの品はほとんどが盗掘流れで、正確な出土地域が不明な物も多いのかもしれないと思った。
そして後半、地上絵のコーナーでは大スクリーンによるナスカの地上絵を3Dでリアルに再現し、地上から上空まで自在に視点を変えて遊覧する映像が非常によくできていた。しかし、ここからの解説は途端に憶測ばかりになり考古学的検証が脆弱になる。地上絵に描かれたサルやクモ、ハチドリなどの図案とナスカで出土した土器の図柄は似てなくもないが、共通性を主張するには違和感を拭い切れない。ナスカの遺跡と地上絵の位置関係も言及されていなかったし、ナスカ文化と地上絵を結びつけるには説得力に欠けるような気がしてならない。学説通り地上絵をナスカ人が描いたとして、その目的が何らかの儀式を行うためであったとして、直線や幾何学模様はさておき、飛行機からでないと全体像を把握できないような動物の絵を当時の人々がどうやって描いたのか?地上絵に関しては謎がまったく解けないままだった。
以上はナスカ展をひととおり見て回った僕の独自解釈と偏見に満ち溢れた感想であり、実際ナスカ文明に関しては今も人生を捧げて研究に明け暮れる学者が何人もいるだろうし、地上絵に関しても謎を解き明かそうと必死になっているのだろう。そういう人たちをすごく尊敬するし憧れる。いつか努力が報われて謎が明らかになる日を願ってやまない。だが一方で、地上絵の謎を解き明かすのは他の遺跡に比べて段違いに困難だろうとも思う。土器などの遺物、住居跡などの遺構からはある程度多くの情報が得られるが、地表をわずかばかり削って描かれた地上絵は遺物でも遺構でもなく、そこに残るのは無数の線と図案のみ。絵の配置や形状以外に得られる情報が、人が残した痕跡が、あまりにも無い。地上絵を描いたナスカ人かあるいは別の何者かが「どうだい、分からないだろう?」なんて嘲笑う姿が目に浮かぶ。人は自らの歩んできた道さえとんでもなく不確かだ。だからこそ知ろうとする。…なーんてな。
いやはや、どうもこのテの話になると人が変わってしまうなあ。注意してほしいのは、展示の内容が悪かったなんてことは全くなくて、むしろ非常に素晴らしくて、でも分からないことはまだまだ多くて、地上絵のミステリーは奥深いなあってことが言いたいのだよ。全然知らなかったナスカ文化、未だ謎だらけの地上絵、とてもわくわくした。行って良かったよ。分厚く読みごたえありそうなパンフ欲しかったけど2000円…マンガ4冊買えるやん…と断念した金欠な自分が憎い。